COVID-19 リスクガバナンスの観点

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記事

IRGCレポート「COVID-19 a risk governance perspective」

2020年05月04日  初版
2020年11月09日 第2版

 

投稿者:日本リスク学会理事会コロナウイルス対策検討チーム
大沼進(北海道大学文学研究院)
小野恭子(産総研安全科学研究部門)
藤井健吉(花王安全性科学研究所)
岸本充生(大阪大学社会技術共創研究センター)
李泰榮(防災科学技術研究所)
久保英也(ワールドマスターズ2021関西組織委員会CSO(リスク統括)、ほか

 

 COVID-19による危機がもたらす影響の1つは、日本および世界各地の政策立案者に、高いストレスの下、限られた時間という条件下で、政策決定にまつわるリスクガバナンスのさまざまなプロセスを経験させることです。日本リスク学会理事会では、国際リスクガバナンスカウンシル(International Risk Governance Council : IRGC)が公開したレポート”COVID-19: A risk governance perspective”に注目し、同センターに許可を得て日本語訳を公開します。本レポートでは、IRGCのリスクガバナンスフレームワークを使用して、危機の進展の主要な段階の概要を説明、近い将来にどのような教訓が得られるかを検証しています。コロナ禍における様々な政策決定、意思決定に関わるリスク管理者の皆さまの、一助としてご参照ください。

 

COVID-19: リスクガバナンスの観点
COVID-19: A risk governance perspective
A.コリンズ 2020年4月
Aengus Collins April 2020
原文はこちら

 

 

教訓は何か

COVID-19感染爆発の最初の数ヶ月間から学ぶべきことは、以下10項目のリスクガバナンスの教訓であろう。

 

  1. 似たリスクは発生源に対処する。コウモリや他の動物が潜在的な感染症の感染源であることは依然として事実である。さらなる感染爆発を防ぐために、人畜共通感染の機会を減らす必要がある。特に、これには、SARSとCOVID-19の両方の発生の原因となっている「ウェットマーケット」を介した感染を遮断する措置が必要になる。
     
  2. 警告に対処する。世界的な感染症の感染爆発が予測されたが、十分に準備されなかった。 明白な教訓の1つは、国内および国際的なリスク評価を見直し(または新しい評価を実施)、これまでに警告がなされてきた影響の大きい他のリスクに対して、より良い防護措置を導入することである。社会はすべてのリスクに対して完全に備えることはできないものの、より多くのリスク、特にシステミック(全体的)な混乱を引き起こす可能性があるものに対して、より備えることはできる。これにはコストがかかるが(ほとんどの国の財政が悪化しているときに)、現在COVID-19の対応に費やされている合計額をみると、何もしない場合の潜在的なコストの高さが浮き彫りなる。
     
  3. 重要なシステムのレジリエンスを強化する。COVID-19は、ここ数十年にわたって組織の効率性が大幅に向上した結果、一部の重要なシステムにおけるレジリエンスが不足したことを一目で証明している。 例としては、一部の国での病院の予備の収容能力が低下していること、重要な医療機器の入手手段が、ますますグローバル化するサプライチェーンが分断したときには脆弱であること、という事実が含まれる。
     
  4. 科学と政策のつながりを強化する。この感染爆発の間、多くの場合、リスクの判断、管理、およびコミュニケーションに関し、科学的評価に基づくアドバイスや情報伝達は、政策立案者の意思決定へうまく伝わっている。しかし、指数関数的に広がる疾病においては、政策立案者が科学的助言を無視したり、それに基づく行動を遅らせたりすると、人的コストは高くなった。すべての国は、COVID-19の経験に照らして、科学と政策を統合する現在のモデルの有効性を再検討する必要があり、国際的なボトルネックも評価する必要がある。
     
  5. 最後の戦争をしてはいけない。パンデミックへの準備強化に関して、極端なリソースを集中させたくなってしまうかもしれない。この分野の主要な不備を修正することは重要だが、次のショックは他の方向から来るだろう。注目するに値するもののまだ受け取っていない、他のリスクの警告にどんなものがあるだろうか?
     
  6. 国家の能力を構築する。2007年以降、2つのグローバルなシステミックリスクが具体化している。このようなリスクへの対処は、周期的に訪れる緊急対応機能ではなく、通常の政府の継続的な部分と考える必要がある。COVID-19によって引き起こされた激動の影響で、将来の対応を強化するための制度や規制の変更の重要な機会がもたらされる可能性がある。
     
  7. 複雑なシステムを理解する。COVID-19の感染爆発は、複雑な適応的システムの非線形ダイナミクスを強力に示している。小さな初期の変化(初のヒト感染)は、ほとんどの国外移動の中止や、世界的な景気後退の到来を招き、世界人口の3分の1がある種の隔離下に置かれるまでに影響が及んでいる。新しい均衡を見つけるのは簡単ではないかもしれないし、すぐにはできないかもしれない。
     
  8. リスクとリスクのトレードオフに注意を払う。COVID-19のリスクを軽減するためにどのような措置をとったとしても、予期しない結果が生じるだろう。現在、いちかばちかの決定が迅速かつ不確実な状況で行われているため、トレードオフの結果を見落とす危険性がある。 可能な限り、これらの副次的影響を評価、判断、および管理戦略の意思決定に組み込むべきである。
     
  9. テクノロジーの役割を検討する。感染爆発やその他の緊急事態を予測し、特定し、対応支援するために、強力なコンピューティング技術を安全に利用するにはどうすればよいか?今回は初の「スマホパンデミック」である。プライバシーを守りつつ、スマホはどうやって接触追跡に使えるのか?同様に、パンデミックの評価、準備、対応のためのツールとして機械学習を活用するために、さらに何ができるか?
     
  10. 信頼を築き、オープンにコミュニケーションをとる。COVID-19危機は広がるペースが速いため、国民と慎重に対話する時間がないまま、管理戦略を選択し、実行することが必要だった。民主主義社会では、これには信頼が構築されていることが必要である。ジョン・バリーが1918年のインフルエンザの感染爆発について「権力者は国民の信頼を維持しなければならない。そのための方法は、何もゆがめず、何事でもないかのような顔をして、誰も操ろうとしないことである。」と述べている。

 

詳しくは、全文をお読みください。

 

<改訂履歴>

2020年11月9日

p.10, 10行目 「何事でもないかのような顔をして」→「平静なふりをしないで」

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