挑む。リスク学の原点―生きたい世界の選択と実現―

リスク学は、人と社会が持つ価値観と向き合う学問です。

1990年代後半の組換え遺伝子作物論争を経て「この論争は安全性に関するものではない。どのような世界に生きたいかという、はるかに大きな問題に関するものだ。」と看破した英国報告書(Select Committee on Science and Technology, 2000)の著名な一節を引き合いに出すまでもなく、リスク学の本質は、その概念が誕生した17世紀後半当時から、どのような世界に生きたいか、という選択にありました。

リスクの語源には諸説ありますが、イタリア語のrisicareとの説が有力です。risicareは、岩礁の間を航行することを意味し、転じて、勇気を持って挑戦することを表します。

リスクは、挑戦です。リスク学は、まだ見ぬ場所、まだ知らぬ未来を思い浮かべて、生き方や社会の進むべき道を選択するための学問です。大航海時代の偉人達も、きっと、リスクと共に生きたことでしょう。船の設計、資金の調達に始まって、安全な飲み水の確保、航路と天候の予測、船員の健康管理まで、学術の垣根もなく、生きたい世界の選択と実現に必要な、ありとあらゆることの中心にリスクがあったことでしょう。

2018年の日本リスク研究学会年次大会は福島で開かれます。日本リスク研究学会が設立され、30周年の大会となります。高齢化と人口減少という新たな時代へと進む今の日本においても、生きたい世界の選択と実現には、分野を超えて挑む“リスク学の原点”の意義がますます増しています。東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を経て、生きたい世界を選択し、実現へと挑戦し続ける福島で皆様をお待ちしています。