会長雑感

©一般社団法人日本リスク学会

会長雑感

新型コロナウィルスとの戦いー構えは長期戦(2020.04.05)

 新型コロナウィルスの感染は、中国から近隣アジア、中東、欧州、そして米国に、大きな感染の山を順に繰り返しながら世界を席巻しています。4月5日現在、ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センター(CSSE)による世界の感染者数は120万人、死亡者は6.5万人とされています。同HPの新規患者数を示す円の面積を世界MAPで見るとマスコミが取り上げる欧州、北米、中東の円が大きいことは予想通りで、少し安心するのは中国の円が小さいことです。


 一方で、凍り付くのは、①中国以外のアジアと②南米の円がやや小さく、何より③アフリカの円が極めて小さい点です。2018年における①+②+③地域の合計人口の世界シェアは62.9%もあることから、感染国数が世界181カ国まで広がったと言っても、人口ではようやく残りの世界の3分の1が厳しい状況を見たに過ぎないことになります。更にこれら3地域のGDPシェアは18.6%であることから、いわば、人類と新型コロナウィルスとの初戦は残りの世界のGDPの8割以上を占めるもっとも防衛力(衛生環境、医療インフラ、医療アクセスにおいて)の高い国が戦ったものの、惨敗したという事になります。

 

 第二戦は、GDPで2割にも満たないものの、世界の人口の3分2を占める地域の闘いとなり、第一戦からの教訓や先進国の支援はあるにせよ、更なるなる苦戦を強いられることは間違いありません。とりわけ、アフリカは、人口シェアが17%もあるのにGDPシェアはわずか1.5%と厳しい戦いが予想されます。

 

 感染者数の急激な動きとフィットの良いガウシアン関数を用いて先行きを極めてシンプルに推計すると、イタリア等EUが3月末、イギリスは4月中旬にピークアウトを迎え、欧州全体が4月の中旬には終息し、アメリカはピークを感染者数累計200万人規模で4月中旬に迎え、終息が5月中旬ごろになるという結果がでます(リスク学会特設サイト「会員の主張や情報提供」の投稿より)。世界という視点で見れば、この後、上記の①、②、③の地域に順次拡散することから今後7~8カ月程度は地球のどこかで感染爆発が観察される可能性が高いと思われます。
 

 その後、北半球が冬場に入る2020年12月以降には、既に感染者数が数百万人規模となっている可能性が高いことから、ウィルスは1918年のスペイン風邪(インフルエンザ)の第二波のように更に病毒性を強化してくる可能性が考えられます。第三戦は、接触感染リスクが上がる冬場に病毒性を増した新型コロナウィルスと対峙する形かもしれません。開発したワクチンの防衛力に疑問符が付く可能性もあり、その先の結果は不透明感が強いものの、新型コロナウィルスとの闘いは間違いなく「長期戦」となると考えられます。
 その中で、我々はできる範囲の中で、今後も1年以上、感染者との接触を極小化しながら経済活動の落ち込みを最小化することが求められることになります。
 

 長期戦であれば、我々の対応も当然変らざるを得ません。一つは、医学的見地からの感染症の治療に加え精神的ケアの重要性、すなわち、メンタルヘルスと心理社会的サポートの重要性であり、もう一つが、今回、注意喚起されている飛沫感染と接触感染を市民目線で具体的に示すことだと考えています。飛沫感染は、「3密を避ける」などよく取り上げられますが、接触感染については一般に消毒用アルコールが手に入らない中で、具体的に言及されることが少ないのが現状です。そこで、この接触感染防止についてエビデンスに基づき家庭でもできる対応などを明示したいと思います。
 

 そこで、学会として、従来のリスク用語解説に加え、この2つを同特設ページで取り上げたいと思います。具体的には、
 

  1. IASC(国連の機関間常設委員会:Inter-Agency Standing Committees)刊行のCOVID-19メンタルヘルスとソーシャルサポートのブリーフィングノートの日本語翻訳版
  2. COVID-19の接触感染に対するリスク低減実施規範~環境表面の除染ガイダンス~

 

になります。
 

 なお、新型コロナウィルス感染症につきましては、5月に学会誌に論文など掲載するのに加え、6月にはシンポジウムを予定しています。
 

 今後も、エビデンスに基づきながら、国民の皆様や研究者の方々に分かりやすい情報発信を続けて行きたいと考えています。
 

以上

コメント(0)
2020/04/06 09:00 投稿者:久保英也、日本リスク学会会長
RSS2.0

メニュー