会長からのメッセージ

From the President(会長からのメッセージ)

前田恭伸

2018年がスタートしました。私の任期も残り半年となりましたが、遅ればせながら私からのメッセージをお伝えしたいと思います。

実はこれまで3度、下記のような形でメッセージを発信していました。

  • 前田恭伸:From the president, 日本リスク研究学会ニュースレター, Vol.29, No.1/2, 2016, http://www.sra-japan.jp/cms/newsletter/ .
  • 前田恭伸:大分大会を終えて,日本リスク研究学会誌,Vol.26, No.3, 2016, https://doi.org/10.11447/sraj.26.121 .
  • 前田恭伸:From the president, 日本リスク研究学会ニュースレター, Vol.30, No.1, 2017, http://www.sra-japan.jp/cms/newsletter/ .

    ただ、これらのメディアは主に会員向けに発信されるのもので、それ以外の方々に向けられたものではありませんでした。そこで今回は、これらを通して言ってきたことをあらためて整理するとともに、最新の情報を踏まえたうえで残り半年に向けた今後の方向を提示したいと思います。

    (1) 海外との連携強化
    以前、日本リスク研究学会誌の巻頭言にも書きましたが(Vol.25,No.4,2015)、時々本学会内の議論が内向きであるように感じることがあります。日本のリスク研究者が国内のリスクに目を向けるのは至極当然のことですし、またその成果を還元すべき場所として国内が選ばれるのは自然な流れでしょう。しかし海外の研究者から、日本からのアウトプットへの期待を聞くことがあります。例えば、2011 年の東日本大震災ではわれわれはマルチプルハザードに対処するという事態に直面しました。こういう経験から何が得られたのか。そういった成果を彼らは期待しています。

    そのような声に対応するために海外との連携を進めてまいりました。今年3月13日(火)~14日(水)には、SRA Asia 2018 Conference (http://www.sra-japan.jp/SRAAsia2018/ )を大阪府高槻市の関西大学社会安全学部で開催します。実行委員長は土田元会長です。国内のほか中国、韓国、台湾、インドネシア、タイ、シンガポールなどから100件を超える発表申し込みがあるほか、SRAのAven会長、MacDonell前会長、Arvai理事、SRA KoreaのShin前会長、SRA TaiwanのWu会長、SRA ChinaのZhai事務局長にも来ていただきます。 国内にて海外の研究者と研究できるいいチャンスになるのではないかと思います。

    (2) 学会におけるリスクマネジメントの位置づけ強化
    リスクマネジメントは、リスクアセスメント、リスクコミュニケーションとならぶリスクアナリシスの 3 要素のひとつであり、重要な活動なのですが、本学会の中での位置づけはそれほど大きなものにはなっていません。この状況は海外も同様らしく、SRA においても数年前までリスクマネジメントを扱う specialty group は存在していませんでした。

    そうなる理由はわかるのです。リスクマネジメントの核心は企業や行政のような組織の実践にあるのですが、これらは研究にはあまりなじみません。また対応すべきリスクに立ち向かおうとするほど、個別の領域・分野に入り込む必要があり、そうすると「個別分野で議論すればいいんじゃないか」ということになりかねません。

    しかし、リスクマネジメントの実践に対する考察が、新たなテーマや概念の源になっていることも確かです。リスクマネジメントを支える研究の必要性は、レギュラトリサイエンスという概念が生みだしました。 3.11 への対応(あるいは対応のまずさ)がリスクマネジメントに様々な反省を生み出していることは記憶に新しいところです。リスクマネジメントの課題への考察がリスクガバナンスというより広汎な概念を生み出したことも忘れてはなりません。こういったことを考えると、リスクマネジメントの実践をわが学会の活動の中に重要なものとして位置付けることが必要だと思います。

    実際、SRA でも 2,3 年前には Applied risk management という specialty group が設立されました。また、昨年12月のSRA年次大会では本学会のリスクマネジャ認定制度について質問を受けることがありました。私たちの作った制度は他の国のリスク研究者/実践者から注目されているのです。

    昨年10月の年次大会で日本保険学会との連携が出来たことは、いい方向であったと思います。年次大会での発表数を見ると、保険を含めたリスクマネジメントに関する発表が全体の発表のほぼ3分の1を占め、従来に比べて全体の中での比率が増えていました。こういった方向を踏まえたうえで、何らかの形でのリスクマネジメントの位置づけ強化を引き続き検討していきたいと思います。

    (3) 社会への発信
    一昨年の年次大会でのパネル討論「リスク報道におけるメディアと専門家の連携のあり方」ではメディアの側から下記のような指摘がありました。

  • 学会ホームページが会員にしか向いていない。社会に発信するホームページにしてほしい
  • 「リスク研究者とは何者か」ということが見えない

    確かにこれは本学会の弱点であるように思います。本学会の理事会でも、いかに学会員にサービスを提供するかということと、いかに会員を増やしていくかということについては、よく議論しているのですが、社会への発信は手薄でした。

    ですが本学会からの情報発信に対する期待があることは感じています。実際、2006年に本学会で発刊した「増補改訂版リスク学事典」はプレミアがついて、アマゾンでは11,000円以上の高値で販売されているようです。こうしたニーズに応えるために、現在久保副会長が中心となって、新しいリスク学事典を2018年度に出版すべく、編集作業を進めています。またこれまで行ってきたシンポジウム・年次大会以外の企画も、現在理事会にて検討されているところです。今後の展開にご期待ください。