木. 8月 18th, 2022

会長からのメッセージ

第18期(法人第7期)会長 米田 稔

 長く本学会の事務局長を務められ、本学会の運営を熟知しておられた村山武彦前会長から引き継いで、今期の会長を務めさせて頂きます、京都大学の米田稔です。私が本学会理事会に入ったのは新山陽子元会長からの紹介で理事に立候補させて頂いた2016年度からになりますので、まだまだ学会の運営を良く理解しているとは言い難いと自覚しておりますが、私なりに誠心誠意務めていく所存ですので、どうか、よろしくお願い申し上げます。

 京都大学では本学会創立時からのメンバーであられる森澤眞輔元理事の後を引き継ぐ形で、工学研究科の環境リスク工学分野という研究室を運営しております。この研究室では、土壌地下水汚染の解析と各種有害化学物質の環境中動態の解析、そしてそれらのリスク評価を専門として、研究を進めてきました。2016年に本学会理事になってからはずっと編集委員会の査読委員長を務めており、最近は傾向として人文社会科学系の投稿論文の方が多くなってきている学会誌での編集活動は、工学系の私にとってはリスク学に関する視野を大きく拡げてくれた6年間だったかと思います。

 ここ数年の本学会のテーマとして、リスク学の社会実装、という言葉が良く使われました。2011年3月の福島第一原発事故以来、マスコミにはリスクという言葉があふれ、実際、意識的あるいは無意識的に、リスクの定量的評価に基づく意思決定が迫られる場面も増えてきているように思います。しかし、例えば放射能のリスク評価など、まだまだ一般市民にとって社会実装と呼べるレベルには達しておらず、リスクの科学的評価が結局は風評に負けてしまっている場合も多いかと思います。リスク評価から人の心理としてのリスク認知に至るには、単なる工学的な評価方法だけでは不十分だということは感じているのですが、では実際に社会実装に至るにはどのような道筋を辿って行けば良いのか、これを明らかにすることがリスク学の一つの大きな課題だとすると、リスク学はまだまだ産声を上げた程度に過ぎないと言えるかもしれません。

 特に新型コロナウィルスによるパンデミックが発生してからは、一般市民がリスクの定量的評価とその選択を迫られる場面も増えているように思います。例えば新型コロナウィルスワクチンの接種において、人々は感染による重症化のリスクと、副作用のリスクを天秤に掛けることになりました。若い世代においてワクチン接種率が比較的低くなる傾向が見られたことは、人々が各自の立場での重症化リスクと副作用リスクの定量的評価と比較を行い、どちらのリスクを受容するかを決めたことを意味するのではないかと思います。しかし、これらのリスクの定量的評価を行うための十分な量の情報も、その科学的評価方法もマスコミなどで系統だったものが報道されていたとは言えず、人々は不十分な情報の下で、手探りで感覚的にリスクの大きさを捉え、意思決定を行っていたように思います。せめて人々が意思決定を行うために必要な情報が公式に整理された形で発表され、それらの情報をどのように解釈すべきかが政府から発表されるような社会にならないものかと、少し苦々しく、そしてリスク学を標榜するものとして、少し恥じるような思いを感じていました。

 本学会の前身である日本リスク研究学会が1988年に誕生してから三十数年、第17期において、研究から実践・社会実装へ、として学会名を日本リスク学会と改名しました。その決意を受けての第18期となります。これからもリスク学の益々の発展と社会実装へ向けての活動を探り、そして進めて行きたいと思います。会員の皆様、ご支援ご鞭撻のほど、どうかよろしくお願い申し上げます。

2022年7月吉日